礼拝堂アデルフォイにて、私が勤務していた女子大学の卒業生二人と読書会を続けています。
集まって一冊の本を読むのではなく、各自が関心を持って読んだ本の内容と自分の感想を
述べ合う時間を過ごしています。
今日は久しぶりの会となりました。私の読書はキリスト教関連を中心にしてかなり偏っていると感じて
います、それで二人の方からの読書の報告は今回も新鮮で新しい発見、気付きがありました。
本日、卒業生が紹介した本の中から、特に私の心に残った文章をご紹介します。
沢村貞子著『貝の歌』(河出文庫)女優である著者が自分の歩んできた道を振り返ったエッセイのような本です。
場面は1945年8月15日、昭和天皇の敗戦宣言の放送(玉音放送)を隣組の人たちと聞いたあと。
(著者)私は、ハッと我にかえって、義妹の顔を見た。義妹の目がパッと輝いた。私たちは、母の手を
引っ張って家の中に駆けこんだ。
「終ったのよ、お母さん、戦争が終ったのよ」
「ほんとうに終ったのかねえ」
〈義妹)「終ったのよ、終ったのよ、私の旦那さまが帰ってくるのよ」
私と義妹は手を握って家の中をぐるぐる踊りまわった。
「もう空襲もおしまいよ」
家中の暗幕をはずして歩いた。
「・・・・・でも日本が敗けたんじゃこれからたいへんだろう」
がっくりすわりこんでいた母が心配そうに声をひそめた。
「そりゃあたいへんよ、きっと・・・・でもいくらたいへんでも戦争して殺し合っているよりましでしょ」
「そうよ、わたしもそう思うわ」
そう言いながら、義妹はいきなりバケツを持ち出して掃除をはじめた。私も勢いよく廊下の雑巾がけを
はじめた。母までが「よいしょ」と立ち上がって、窓のガラスをグイグイふきだした。みんな、なんとなく
からだをうごかさずにはいられなかった。
「いくらたいへんでも戦争して殺し合っているよりましでしょ」これは痛快、いい場面だと思います。
女性たちが、もう未来を引き寄せ始めた、たくましい躍動を感じました。
アデルフォイでの読書会は、狭くなりがちな視野を広げてくれています。
(2014年6月27日 石谷牧師記)
写真は三人が紹介した本。